おいらのお掃除物語
「なんだよ!汚ねぇな!」
それが全ての始まりだった。
桜の便りが聞こえ始めた、とある平日の朝。はっしゅは自分の働く会社の、まだ誰もいない工場に立っていた。
25年前に建てられたその工場は、決して広いとは言えないし、機械の殆どはその当時から使い続けているものだ。はっしゅ自身も、14年前に営業に配属されるまでの10年間はこの工場で働いていた。
ただでさえ手狭な工場は、ここのところの受注量の増加により、資材、仕掛品、完成品が溢れ返り、作業スペースや通路の確保すらままならない状況である。
加えて、現在の工場のメンバーは、どうも整理・整頓・清掃が苦手らしく、製品や資材は乱雑に並び、床には前日の作業で出た端材やゴミが散乱していた。
「ったく!掃除くらいして帰れよ!」
その状況を見るに見かねたはっしゅは、お節介かとは思いつつも、ホウキを手に取り、掃き掃除を始めた。
翌朝、工場に行くと、また状況は昨日の朝に逆戻り。はっしゅは呆れつつも再び掃き掃除を始める。直接、工場のメンバーに掃除を促さないのは、もう既に何度も促してきた結果がこれだからである。
床が綺麗になると、今度はモノが乱雑に置かれ散乱ているのが気になるはっしゅ。
とは言え、他人のテリトリーなので、整頓に留める。少しでも気づいて変わってくれたらという願いを込めて少し大げさなほどにキッチリとモノを揃える。
はっしゅの脳内では、純粋に工場を綺麗にしようと思う気持ちと共に、このところ、どうも関係性が上手く噛み合わないメンバーたちへの戒めのような変な感情とが交錯していた。
それ以来、はっしゅの清掃活動は毎朝の日課になった。少しずつ綺麗になっていく工場に、はっしゅの心も癒されていき、日に日に純粋に掃除が楽しく思えてくるようになっ。工場のメンバーが片付けて帰らないとかそんなことはもう、どうでもよくなってきていた。はっしゅ自身が工場で働いていた頃よりも丁寧な掃除になっていることに気づき、一人、苦笑いする。
「自分のことを棚に上げて、とはいかないからな」
相乗効果と言うべきか、はっしゅ自身のデスク、営業車内も日に日に綺麗になっていく。
そんな清掃活動を始めて2週間が過ぎた頃、はっしゅがいつものように出勤すると、昨日の朝まで乱雑だった工場の作業台の上が綺麗に整理されていた。どうやら、前日の帰り際に工場のメンバーが整頓して帰ったらしい。
「何かが変わり、動き始めた。」
工場のメンバーがどう思って、整頓して帰ったのかはわからない。思いはどうあれ、自分の意志で行動し始めたことを今は讃えたい。
そんなことを思いながら今日もホウキを握るはっしゅであった。
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